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さてもさて、明日はまた最高気温20度に達する勢いだそうな。
植物への影響を心配しているが、それはイコール作物への影響、
つまりは私たちの食料への懸念でもある。
しかし、静岡市葵区にある棚田では、そんな心配は今年もなさそうだ。

10年前から、いわば実験的に稲作自然農を行っている、清沢塾。
始まりは、放置された棚田でコメ作りをしたことからだった。
6段ほどの棚田の上には、竹やぶ、他の木々が生い茂るブッシュ。
しかし、そこここに、石垣を積んだ後を見つけ、発掘してみれば、そこも棚田。
新たに広げて、現在の風景となる。

放置された田は、元通りに稲作ができるまでには、かなりの労力が必要と聞く。
5年も放置されれば、もう、元の木阿弥、田にする開墾は並大抵の努力ではない、とも言われる。

いくら自然農で、耕さず、農薬を使わず、肥料もほとんど還元的にしか使わないと言っても、
当初は、田を掘り起こし、土には有機肥料を施し、土作りに時間を要したのではないかと思って尋ねてみた。

清沢塾の塾長、中井弘和さんは、やっていませんよ、とにこやかに言う。

日本中で問題視される、生命力の強い駆除しがたい竹、その竹も切り取って、後に水を張ればもう出て来ない。
生えていた木の切り株も、水田になった土の中で、自ら土に返っていった。

やってみてわかったことです。

やってみればいいんです。

中井さんは、そう言う。
放置田は、年数を経ると大変だと言うけれど、決してそんなことはない。
今からでも、やってみることです、と。

清沢塾では、毎月第2第4土曜が作業日。
行けば、すぐにも仲間入りができる。

明日は、次の収穫に向けての種まきの準備。

苗床には、水苗代と畑苗代がある。
初めは畑苗代で、土に種を蒔き、出てきた苗を田植えした。
ところが、まだ小さな芽生えは、食べられないひえと稲との見分けがつかない。
作業に参加した人々の手で植えた田の1割が、ひえだった。

ひえも、稲と見分けがつかない成長をすることで、生き延びてきたのでしょう、と中井さん。
そこで、水苗代を取り入れてきた。

水を張った中からなら、畑苗代に比べて半分の2週間程度で芽生えてくる。
発芽が圧倒的に早い。しかし、それはまた、種に、自然ではない無理を強いることにもなる。

今年は、再び畑苗代に挑戦するのだそうだ。
ただ、当初とは異なる、幻の技術を復元して。

それは、畑苗代の周囲に溝を作り水を張る、畑苗代をある程度潤いのある土に保つやり方。

なぜそれが、幻なのか。

実は、この技術が開発された頃、田植え機が登場した。
大量生産、機械化、農業にも新たな波がやってきていた。
その中で、必要とされなくなっていった、時代が淘汰したとも言える技術だった。

そう聞いてくると、植物が自分で環境と会話しながら育つのを無視して、
技術で過酷な成長を強いていると言うのもうなづける。

寄り添う農業、生命に寄り添う技術が、これから特に大事なのではないか、と中井さんは静かに言う。

植物である稲の力に寄り添って、稲の育ちを見守る。

暑い寒いも、水のあるなしも、風も、中山間地の棚田と言う日照の少ない環境も、そんな中でも、稲は育つ。
稲が、自分で見計らって、自分の成長する力を発揮しながら、自分で実りを目指す。

ヒトは余分な手間で過保護にせず、無理に思うように育てようとはせず、必要な助けを施す。

稲とヒトとの、そんな関係が、清沢塾にはある。

明日は、清沢塾の10周年パーティも、棚田の風に吹かれながら催されるとか。
そう、誰でもそこでは、仲間になれる。

◎清沢塾
http://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-630/tanada/area/kiyosawa.html